第11回つくばリサイタルシリーズ「2台ピアノで奏でるオーケストラ~名曲を旅する~」に出演される中井恒仁&武田美和子ピアノデュオにインタビューを行いました!
今回は筑波大学ピアノ愛好会さんからもインタビュアーとしてご参加いただき、演奏への取り組み方や情熱に対しても深くお話を伺うことのできた、穏やかだけれども熱い1時間でした。それではお楽しみください!
- Q1.今回のプログラムについてコメントをお願いします。
- Q2.ピアノの魅力について教えてください。
- Q3.ピアノデュオの魅力はどんなところでしょうか?
- Q4.今後の活動の展望を教えてください。
- Q4.長年ピアノをやっていて最近分かるようになってきたことはありますか?
- Q5.自分の気持ちが安定しないと演奏も安定しないと感じます。気持ちをコントロールするコツはありますか?
- Q6.好きな作曲家は誰ですか?
- Q7.コンサートで演奏する曲はどうやって決めていますか?
Q1.今回のプログラムについてコメントをお願いします。
(武田)
ピアノの色んな形態で聴いていただけたらということで、まずは美しく青きドナウとモルダウを連弾でさせていただきます。一台のピアノから二人で紡いでいく音楽を2曲聴いていただきます。
オープニングは、お正月を過ぎたところなので、ドナウの明るい雰囲気で始まりたいなと思って。この曲はよくウィーンフィルがニューイヤーコンサートの最後で弾かれる曲なんですよね。有名でヨーロッパでは喜ばれる曲なので、初めにオープニングとして明るくやろうかなと思いました。
その後に、たまたまなんですけどモルダウっていう今度はドラマティックで川の流れていく様子が見える、とても具体的に情景が思い浮かぶ曲を選曲して川続きになりました(笑)。川の流れを使っていろんなところに旅行に行けたらいいのかなという感じになっていきますね。
それで、2台ピアノに関しては・・・
(中井)
皆さんが知っている曲をできるだけ、と思いまして、二台ピアノの有名な曲をいれました。
動物の謝肉祭は、実は今年が(作曲者である)サンサーンスの没後100年という年なんですよね。この曲はもともと2台ピアノと室内オーケストラという形でやるのがオリジナルなんですけども、それを2台ピアノだけにアレンジしたもので今回は演奏いたします。
そして最後はベートーヴェンの第九、第4楽章のフィナーレを演奏します。こちらは歓喜の歌ということなんですけども、友になったものと歓喜のなかに入ろうとか、どんな弱い者にも歓喜はあるんだとか、英雄のように胸を張って進もうではないかとか、それからすべての人を神様は守ってくれてるんだとか、そういうメッセージが歌詞のなかに散りばめられているわけです。いまコロナのなかでまだ完全な状況ではないんですけども、このなかでも前進していこうではないかという歌詞がちょうどいいんじゃないかなと思いました。本当に素晴らしい作品で、もともとはオーケストラと合唱の曲でしたけども、リストが素晴らしくアレンジをしていますので、これを最後に弾きたいと思いました。
(武田)
後半は江藤先生の曲も弾かせていただきます。江藤先生が張り切って二台ピアノを作ってくださったので、江藤先生が表現したいように私たちも、上手に場面が見えるように練習して皆さんにお披露目したいと楽しみにしています。
ひとつ付け足すと、動物の謝肉祭という曲は、いろんな楽しみがある曲で、すごく軽やかで動物がたくさん出てくるんですけども、それがちょっと皮肉的だったり、おもしろい曲なので、それをお話ししながらできたらいいなと思っています。
Q2.ピアノの魅力について教えてください。
(武田)
ピアノを使いながら歌のように聞こえたり、弦楽器がなっているように聞こえたり、トランペットやホルンが鳴っているように想像しながら聴くと意外とそれっぽく聞こえたりするときがあって、いろんな弾き方で変化させながら弾いていくことで、多彩な音色が聞こえてくるようになります。
そこを普段から意識して皆さんにお伝え出来ればいいなと思っていて、とても繊細できれいな音色から、すごく華やかな大きなスケールのものまで、幅広く演奏できたらいいなと思っています。
(中井)
一台でフルオーケストラの音域をカバーできるだけの音域もありますし、それをいかに使っていくかということも魅力的なところではあるんですけども、その音色や響きで発信するメッセージ、オーラとか雰囲気とかそういうものも含めて、音楽のコアな部分、内面的なものを伝えることができます。その辺もピアノの魅力かなと思います。
Q3.ピアノデュオの魅力はどんなところでしょうか?
(武田)
私たちは大学で知り合って、それぞれのソロをやっていたところから合奏するようになって、それから20年以上一緒にやってきたんですけども。最初はそれぞれがきちんと準備ができていて合えばそれでいい音楽ができるのかなと思っていたんですけど、やっているうちに音を溶け合わせたり、二人で協力して組み合わせて響きをつくるとか、そういう難しさがわかるようになってきました。
息を合わせるっていうこと以上に、音楽の瞬間瞬間に出来上がるものを一緒に作りあげるという作業の難しさと共に、その深みを感じるようになってきました。そこがピタッとお互いが思っているものにはまったときはうれしいし、やりがいを感じています。
(中井)
ピアノは一人でも10本の指を使えば相当いろんなパートを弾けるんですけどもやはりそれが倍になるともっといろいろなパートが弾けて。それからいろいろなパートが弾けるといってもそれぞれが持っている音っていうのは違うので、自分が持っていない音が加わるということから生まれてくる新しい響きを一緒に作っていく面白さがあるんだと思います。
ただピアノは音色を変えるにしても「ピアノ」っていう楽器の音がするので、音がただ増えても今度はごちゃごちゃに混ざったように聞こえてしまうんですね。だからそれをいかにいろいろな音やパートが聞こえるようにするかっていうことが実は難しいところです。でも立体的な響きを作って、一つのものとしていくということが非常に面白いところかなという風に思います。
Q4.今後の活動の展望を教えてください。
(武田)
これまでは毎年海外に行っていて繋がりがあって、そういった人たちから今年は来れますかというメールは来るんですけども、行けるか行けないかわからなくて返事ができないというもどかしさはあります。
でも世界とつながっていくために、もしかしたらリモートでのやり方も発展していけるかもしれないしとか、そういったことを考えるきっかけになりました。
ただやっぱり、空気を通してダイレクトにライブで聞いていただきたいとか、気持ちとかは、近くの空間で聴いてもらうことが一番伝わるかなと思っているので、コロナがなくなることを祈りながら、準備だけはしていこうという感じではありますね。だいぶホールなども皆さんが入れるようになったので、大勢の人に聞いていただくことは出来るようになってきましたね。
(中井)
去年は演奏会自体ができない時期がかなりたくさんあったので、そういうところから見るとお客さんが入る状況でできるようになって本当によかったなと思います。
それでもやっぱりまだ海外には行けないので、まずはコロナが収まって海外にはいってみたいなという思いは一番強いですね。今までよりもオンラインの魅力を感じるようになったこともあるんですけども、それでもやはり対面とは違う部分があります。対面だとお客さんの空気を感じることができるので、そういうところを一番大事にはしていきたいと思っています。
Q4.長年ピアノをやっていて最近分かるようになってきたことはありますか?
(武田)
自分への問いかけはずっと続いてきてて、一つクリアしたら新しい疑問がわいてきたりを繰り返して何十年もやってきてるんですけど、基本的には、表現することに関しては自分のやりたいことを出したい。ただ、それをお客さんに伝えるときに、曲を作った作曲家が何を残したかったのかとか、楽譜に書かれたことを原典版から判断して、作曲家のメッセージをくみ取るべきだろうということをいつも思っています。
自分が楽しむこととかワクワクすることももちろん大事なんですけども、その上にやっていかなければならないことがあると思っていて、どれだけ作曲家とリンクできるかということもそうだし、自分が持っている内面や人に伝えたいことは演奏に出るなと思っています。普段思って生活していることも裸になってしまうと思うので、それも大事にしなければならないなと思っていますね。
あとは耳の使い方に変化がありました。人の演奏を聴いて、こういう音を鳴らそうとしているとか、どこにどの音があって、という立体的な映像が耳に聞こえるようになってきて、そこで聞き分けるという力がやっているうちについてきた気がしました。
(中井)
ずっとやっていくうちにタッチが変わってくるとか、腕の使い方が変わるとか、そういった工夫をいつもしているわけなので、いろんなタッチの方向を探求しながら弾いてるというというのはあります。だから弾き方とかそういうことは日々変化して言っているのかなと思います。
それから同じ曲を学生の頃とまったく違うように感じるということは全くないんですけども、穏やかさへの感動の仕方が違うとか、そういった感じ方が微妙に変わってくる。クレッシェンドとかドルチェとただ書いてあってもより大きな意味を感じることができるようになったりとか、そういう発見は常にあるので、それは面白いところだなと思いますね。
―――(僕も今まで楽譜だけみて演奏していたのが、これも同じ人間で作曲家がつくってたんだなということを意識するようになってから、自分自身の人生と作曲家の人生を重ねてクラシックの曲を考えるようになって、いろんなことを気づくようになってきました。)
(武田)
そうですよね。昔の人だけどそのときから大事にしようとしていることとか、思ってることが一緒だったりするのかなと思う時もあるし、時空を超える感覚が音楽を通して自分のなかにのこったり、メッセージとして感じるという良さもあると思います。
(中井)
ショパンの協奏曲なんかを聴くと皆さんとおなじくらいの歳のときに書いているものだし、そういう、もっと近いところで感じられるとまた違う興味がわいてくるんじゃないかなと思います。
Q5.自分の気持ちが安定しないと演奏も安定しないと感じます。気持ちをコントロールするコツはありますか?
(武田)
それは一番の課題でもあります。何回本番をやっても緊張はするし、この曲の良さとか音楽の素晴らしさを伝えたいという気持ちがあればあるほど緊張はして当然かなと思います。
緊張を乗り越えるためには、やっぱり準備しかないかなと思っていて、その自信とか、ここまでやってきたというものが土台にあるという感じがしています。いっぱい食べて、なるべく寝るようにして、それでなるべくわくわくしていろんなことに向かってみるという、そういうことをしたいなと思っています。
それであんまりくよくよしない。そういうところも必要かなと思っていて、悩んだ時には周りの人に聞いてもらったり、話し合ったりということもあります。
(中井)
いかに曲の世界とコンタクトを持ちながら本番に臨めるか、またそういう状況で練習できるかということが一番大事かなとは思ってるんですけども、ただピアノを弾いてるだけでいいわけではなくて、やっぱりいろんなことをして様々な考えの人と出会うと、いろいろな迷いや問題は出てきますよね。
そういったその時々のものがすべて自分のためというか、自分がそういう状況にいることでうまく回ることがあるんだと思うことができるといいなとは思っています。
(武田)
本番直前の様子というのは二人は全然違うんですよね(笑)。彼は直前でもよく食べて大丈夫なんですけど、私は当日は始まるまであまりものを口にしないで、なるべくテンションを抑えて本番に向かってあげていくという感じなんですよね。
Q6.好きな作曲家は誰ですか?
(武田)
私はモーツァルトが得意で弾いたりしてるんですけど、もっと軽やかなショパンとかも好きです。けれど、それと対照的にリストは手にはまりやすいというか、世界観も好きですね。リストは宗教的な部分もあってすごくきらきらしていて、そういうところはしっくりくるなと思って弾いています。私たちはソロのときは全然違う作曲家を得意としていますね。
(中井)
ショパンとかリストも素晴らしいなと思って好きな曲もあるんですけど、弾いていてじっくりと向き合えるのはベートーヴェンやブラームスですね。
Q7.コンサートで演奏する曲はどうやって決めていますか?
(中井)
何か言いたいねということが二人でパッと出てくることもあるし、今までやった曲を見比べながら、じゃあこういう曲まだやっていないからやってみようかという時もあります。
(武田)
今度はどんなテーマにしようかということを二人で知恵を出して、じゃあこんな曲があるよとお互いに探したり、テーマに沿って同時に音楽会がどういう風に流れて、一晩で起承転結ができればいいなと思って考えてますけど、どっちかが絶対に決めるということはなくて、二人で出し合ってますね。
(中井)
弾きたい曲が決まってそれをどう持っていくかということが一番多いかもしれないですね。
part1はここまでになります!曲目やピアノの魅力から、コンサートの裏側まで知ることのできるインタビューでした。
part2以降も様々な質問にお答えいただいていますので是非チェックしてみてください!
実際のインタビューの様子がこちらの動画からご覧いただけます↓
文責:岩永(比文3年)
part2はこちら↓