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2024年6月9日(日) 第2回TRSサロンシリーズ『荒木奏美 染みわたるオーボエの調べ』 チケット→https://teket.jp/1479/33549

アミューズ・クインテット井上俊次さんへインタビュー

 こんにちは

 

木管界のトップリーダーとして木管五重奏の魅力を発信し続けるアミューズクインテットのメンバーの一人でファゴット奏者である井上俊次さんにインタビューを行いました!

 

インタビューを通していろいろ興味深いお話をお伺いしたのでその内容をお伝えしようと思います!

 

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リハーサル風景、黒服を着た方が井上さん

目次

 

 Q1.曲について

前回演奏した三つの寓意劇は、江藤さんと僕はかれこれ20年ほど昔から知り合いであり、その関係もあって彼から誘いをうけて作曲していただいたもので、前回(第5回)のコンサートでは僕らが初演をさせていただきました。

三つの寓意劇っていうのは一つ一つが重たくて大きく、特に二楽章っていうのは、和声にしても旋律にしても非常に魅力的なのですが、とても重たくて演奏するほうは結構大変なんですね。例えば弦楽器であればブレスはなくてずっと続けられるんだけど、管楽器っていうのはブレスとったりしなきゃいけない、それでずっと吹いていると口が痛くなったり息が続かなくなったりとか弦楽器のように自由にはいかないんですね。彼の作品はまるで弦楽器のように長いフレーズを休みなくずっとつづくことが多いので、演奏する側にとってはハードルが高いというか、大変です。でもその分だけ聴きごたえのある楽曲なのかなと思います。

一楽章はテーマ性がとてもクリアな感じ、二楽章はゆったりとした中に変化があって非常に重たい、二楽章だけで一つのシンフォニーみたいな雰囲気のある曲、三楽章はとっても軽快な、踊りみたいな曲でしたね。どの楽章も魅力的でした。

初演時に感じたのは、現代音楽というと不協和音を前面に出して進行していくのが常かと思うのですが、江藤さんの作品というのはそういうのが全くなくて、和音だとかリズムだとか本当に私たち日本人にとってとてもなじみのある民謡のメロディーが盛り込まれていて魅力があるのですね。現代においてはいろんなメロディーが書き尽くされていてそこに新たなメロディーを創り出すというのはとても難しいと思うのだけど、彼の曲はそこを上手くかいくぐって、現代的センスで昔の曲を掘り下げています。そして、クラシック音楽している者にも新鮮な味わいのある場面というのをたくさん隠されおり、そういう意味でもとても魅力的な曲だなと思いました。

 

そして今回演奏させていただく初演の曲は、題名にあるように春の小鳥のさえずりのようなとてもウキウキとした、だけど単調に描かれるわけじゃない、どこか憂いのあるようなサウンド感があって、魅力的な曲です。この曲も同じなのですけど、和声が独特なんですね、色彩が次々展開していくような時にはゲーム音楽のようなきらびやかでインパクトのある場面が出てきて、そこは演奏していてもときめくようなところです。そういった場面があちこちに散りばめられてて、とても面白いと思います。

 

楽曲解説part.4 三つの寓意劇 ―木管五重奏のための(2016) - つくばリサイタルシリーズ公式ブログ

楽曲解説part.5 新曲≪春の小鳥たち≫ - つくばリサイタルシリーズ公式ブログ

 

Q2.木管五重奏の魅力

木管楽器が入るアンサンブルとしては比較的メジャーなのかなと思うんですけども、大きく違うのは、5つの楽器の内発音体が同じなのはオーボエファゴットだけで、残りは全ての楽器の発音体が違うんですよね。

フルートは皆さんお分かりのように息を管に通して風の音を奏でる笛ですよね、オーボエファゴットはダブルリード、二枚のリードが重なって音を出します。クラリネットはシングルリード、そしてホルンは金管楽器なので唇です。要するに木管五重奏には4つの振動体があるんですね。

アンサンブルをする上で実は発音原理というのはとても大事です。金管楽器だと発音原理が一緒なので音が合いやすくアンサンブルしやすい。それに比べると木管五重奏というのは4つの発音原理が違うものが合わさっているので、非常に合わせるのが難しい。でも、難しいんだけれど、音があった時に何が起こるかっていうと、音のバリエーションが非常に豊かになります。高低だけじゃなくて、いろんな音色がそこに混ざっているので、合わさった音の幅の広がりっていうのが創造を超えた音がする場面っていうのがあるのではないかと思います。ですので、木管五重奏の一番の醍醐味は、音色のマッチング、音色の広がり、音色の可能性、音色の変化であり、それらを演奏時に楽しんでいただけるのかなと思ってます。

 

Q3.木管五重奏で一番大事なこと

フレーズ間の一体感、フレーズ間を共有することが大事。小節単位のフレーズで全員が同じようなフレーズ間(盛り上がり)を表現することが管楽器は難しい。見えづらいけど、演奏しながら。誰がメロディーなのか、伴奏なのかお互いに感じあって次につなげています。フレーズの解釈は人それぞれだけど、フレーズの解釈をみんなで考えながら共有していく、譲歩していたら逆に統一感がなくなってしまいます。

 

Q4.コロナ禍の音楽活動について

オーケストラでは距離をとって演奏していたけども、室内楽になるとそういう風にもなかなかできなくて、当時はコロナ禍ということでアンサンブルのリハーサルをすることができませんでした。そのため当時流行っていたオンラインでの録音を僕らもシリーズとして4つの動画をYouTubeにアップしました。ただ、なかなかそれぞれ違う場所で演奏したものを合わせることが難しいです。

実際にどのように音を合わせたかというと、過去にやった演奏に合わせてクリック音をつくりました。メトロノームを電気的にやっちゃうとテンポが一定になってしまい、音楽的なものが作れないので、過去の自分たちの演奏にビート感をクリック音に起こしました。

それに合わせて演奏したものを各自録音したものを僕が動画にまとめ、リモートでの演奏をいくつかアップしました。

実際、クリックがゆっくりだといいのですけど、早く入れるときはビートに対してそれぞれ感じ方が少しずつ違う場合があり、お互いに聞いてやっているわけじゃないので録音だと結構ずれちゃうのですね。それを結構修正しつつ編集で合わせて作ったって部分はありました。でもなんとか形になるかなという形で映像をうまくつなげて、遊びの要素をいれながら作ったので、お時間あったら見てみてください。

 

Q5.コロナ禍の音楽活動で見直したこと、考え方が変わったこと。

オンラインの録音や編集作業を通じて、別々の場所で一人で活動するのはあまり楽しくない、エキサイトしてなかったです。一緒に演奏をしないと実際に興奮でなく無理やり作った興奮になってしまい、いい音が作れないなと感じました。

普段のアンサンブルは聞いて合わせているのはお互いちゃんと反応しあう、人間的な活動してるんだということに気づきました。実際に会って演奏することが大事だなと改めて思いました。

 

Q6.今後の活動の展望

アミューズクインテットは割と一つのテーマを持ってて、マイナーで地味なんですけど、アントン・ライヒャ(レイハ)っていう古典の作曲家がいるんですけど、木管五重奏のために4楽章の曲を計24曲も作ってるんですね。実は彼の作品のなかでも名曲と言われるものは少なくて、非常に地味でとっつきにくい曲ばかりなんですけど、それをいかに楽しく、そして魅力的に弾くかっていうのを僕からの命題にしてて、ライヒャの作品を取り上げて、こんな隠れた名曲があるんだよというのを世の中に提示できたらいいなと思ってます。それをできれば全曲演奏したいというのを目標にやっており、今までにすでに5曲くらい演奏しています。

他にも木管五重奏のために、フランス近代の作曲家はオリジナル曲をいくつも出してるので、その辺を多くの人々に紹介できたらいいかなという思いはありますね。

木管五重奏自体はレパートリーが多そうですけども、結構限られているので、そこをできるだけ広げる形で活動できたらなと思ってます。

 

Q7.アンサンブルをやっている人(主に学生)に向けてメッセージ

 一人で吹いているのは限界がある。デュオでもいいからアンサンブルをするのは楽しく、3人4人5人でアンサンブルをすると世界が広まります。

アンサンブルをすることは指揮者に従う以上に自分の自我が出てしまいます。自我同士がぶつかりやすいのでそこで自分の個性に気づけます。そういったところが、怖くもあるし面白いと思います。

「楽しくやろうね」でなく「お互いに上を目指そうね、本音を言おうね」という気持ちで演奏しながら相手の演奏を聴いてぶつかり合い、自分の感性を高め、人間的に活性化してほしいです。

学生は失敗もまだ許されるから、失敗できるうちに自分の人間的部分をさらけ出してやらかしたことをしっかり反省する。上手い下手関係なく、楽しんでいろんなアンサンブルをすることで社会性を同時に成長してほしいです。

 

Q8.ご来場の皆様へ

今回は江藤さんの作品にスポットを当てたコンサートになってますけども、江藤さんの作品っていうのは、現代曲としての難しさを飛び越えて、親しみのある魅力に満ちた作品が多くあります。そしてそういう作品を書ける作曲家っていうのは実は意外と少ないのかなという思いもあるので、是非心地いいサウンドだったり、あるいはすごく突飛だったり、いろんな変化に満ちているので、是非その江藤さんのワールドっていうのを楽しんで存分に味わっていただけたらと思っております。

 

木管楽器を演奏したことがない自身にとって、井上さんからお伺いするお話はどれも新鮮で勉強になるものばかりでした。

 

以上です

 

(文責:生物 舩橋)