つくばリサイタルシリーズ公式ブログ

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4月13日(火) カルテット・アマービレ BRAHMS Plus〈II〉 演奏会レポート

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代々木公園からHakuju Hallまでの道

 

こんにちは、つくばリサイタルシリーズ実行委員会の勝俣です。

先日は、Hakuju Hall(渋谷)で行われた、カルテット・アマービレさんの BRAHMS Plus〈II〉に行ってきました。

 

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Hakuju Hall入り口 中はとても美しいホールです!

 

まずロビーには、(自分の見間違えでなければ)著名な演奏家や指揮者の方をお見かけして、アマービレさんの音楽業界内での期待の高さを伺い知りました。

 

演奏プログラムは

モーツァルト : 弦楽四重奏曲 第17番 変ロ長調 K.458 「狩」

藤倉大 : Aquarius(カルテット・アマービレ委嘱作品)(世界初演

(休憩)
ブラームス : ピアノ五重奏曲 ヘ短調 op.34(ピアノ:清水和音


幸にして前から二列目の席が取れたので、演奏者の方々のオーラを間近で感じることができました。

 

開演

1曲目、モーツァルト

演奏中、奏者さんたちの視線は様々な方向に向かいます。聴きたい相手の方向であったり、音が調和している場所であったり。特徴的だったのは、奏者さんの視線がしばしば上方に注がれていたことです。アマービレの皆さんの視線を見ていて、音楽が空間の中で立体的に見えるようでした。昨日、自分がCDの録音を耳だけで聴いていたものとのあまりの違いに、実演を見て楽しむ喜びと、見て聴かせるアマービレさんの技巧の凄みを感じました。演奏者さんたちが音楽で会話をしているような駆け引きがとても面白く、演劇を見ているかのような気持ちにもなりました。

アマービレさんの奏でるモーツァルトには、どの音にも、どのフレーズにも、すべてに別々の表情がありました。「喜び」や「悲しみ」など、私たちが言語で示すことのできる表情は案外少ないものですが、音楽によって表現することのできる表情は、無限近くまであるのではないかとアマービレさんの演奏を聴きながら考えてしまいました。どうしたらアマービレさんのような多彩な(と簡単に一言では表せないような豊かさを含んだ)音楽表現を身につけることができるのでしょうか。それにしてもモーツァルトの音楽は華やかで軽快であっても、どこかに、(凡庸に言葉で示すならば)「悲しみ」を感じるのが、不思議です。

2曲目、藤倉大

藤倉大さんは現在世界の第一線で活躍されている日本人の作曲家です。藤倉大さんの曲は(私自身がホルン吹きであることもあり)ホルン奏者の福川伸陽さんに捧げられたいくつかの曲を通して聴いていました(そのうちの一つの曲「ゆらゆら」(ホルンと弦楽四重奏のための)は、福川伸陽さんとカルテット・アマービレさんの共演が録音されています!https://www.amazon.co.jp/ざわざわ-藤倉-大/dp/B07QN8P2CH)

さて、今回演奏された「Aquarius」(弦楽四重奏のための)は、世界初演であったため、もちろん初めて聴きました(世界初演に立ち会う経験はかけがえのないものでした)。出だしから凄まじいエネルギーが爆発し、その後は4人の音が独立して運動しているような音楽であり、先ほどまでのモーツァルトとはまったく違った表現の演奏が繰り広げられました。まるで、時間とエネルギーの伸縮を共有しながら、決して交わらない4つの彗星の動きを描くことで宇宙全体を示しているかのような音楽であり、そのスケールの大きさと、その表現を可能にする音楽という芸術の凄さに直面して、息を呑みました。(あらためて、音楽ってすごい……

休憩を挟んで…

3曲目、ブラームス

3曲目からはピアニストの清水和音さんをお迎えしての演奏でした。清水和音さんの演奏もかつて実演で聴いたことがあり、今回のピアノ五重奏はとても楽しみでした。そもそもピアノ五重奏を実演で聴くこと自体が初めてで、どんな感触になるのか、とてもわくわくしていました。前日にCDでこの曲を予習していたのですが、やはり実演で聴くものは良さが全然違いました。個人的には良い実演に出会えると、その演奏の様子が翌日以降にもありありと思い浮かべられるのですが、一日おいた今も鮮明にアマービレさんの演奏の様子が浮かんできます。弦楽器の弓の毛が何度も切れるほどの迫力で、重厚に作り上げられた演奏でした。アマービレさんが作る音楽の表情は、モーツァルトとも藤倉大とも全く違うもので、各々の作曲家の楽譜を、作曲家の意図に則してとても熱心に解釈されていると感じました(以前、第8回つくばリサイタルシリーズにアマービレさんをお招きさせていただいた際に練習を見学させていただいたのですが、その時のアマービレさんのものすごく真摯に音楽に向き合う姿勢が忘れられません)。ところで、聴きながら、ブラームスは地に足が着いたような作曲家だなあと感じていました。モーツァルトのようなユーモラスさはなく、ひたすら真面目に音楽を構築していく。そうした作曲家ごとの個性を、満遍に表現するのがアマービレさんの魅力だと思いました。

アンコール、ドヴォルザーク ピアノ五重奏曲第2番より第3楽章

アンコールはドヴォルザークピアノ五重奏曲第2番から3楽章でした。軽快で明るい音楽のあとに、ドヴォルザークらしい穏やかな旋律が流れ、草原の美しい星夜の風景が浮かびました。

終演

 

というわけで大変満たされて代々木公園からつくばまで帰ったのですが、コロナウイルスの影響で、終演後に演奏者の方々にお会いできないのが少しさびしいなと思いました。ほんとうに早くおさまってほしいですね。

 

5月22日に開催される第10回つくばリサイタルシリーズではカルテット・アマービレさんが出演されます。アマービレさんの凄技を体感しに、ぜひいらしてください。つくばはのんびりとしていてとても良い場所です。

(文責:人社 勝俣陸)