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こんにちは! 徐々に本番が近づいてきました。先日は塙さん・小山さんのオンラインインタビューも行い、(お二方ともとても素敵な方でした✨) 実行委員としても当日直接目の前で演奏が聴けることを楽しみにしています。さて楽曲解説最終回は、本公演書き下ろしの新作、「黄金色のサテュロス」- アルト・サクソフォンとピアノのための (2022) についてご紹介します!
作曲者の江藤光紀先生 (えとう みつのり)は、つくばリサイタルシリーズの創設者であり顧問をしてくださっている、筑波大学人文社会系の先生です。学生時代から独学で培ったというその作風はクラシカルであるとともに現代的で独特な色彩豊かな感じがあり、シリーズ恒例の書き下ろし作品は毎回、リサイタルの大きな見どころのひとつとなっています。
今回の新作「黄金色のサテュロス」は、3つの楽章から成る作品で、出演者の塙さんに献呈されました。
Golden Satyr 黄金色のサテュロス
- for Alt Saxophone and Piano アルト・サクソフォンとピアノのための (2022)
Dedicated to Ms. HANAWA Misato 塙美里氏へ
Ⅰ. Prelude プレリュード
Ⅱ. Akanegumo (Rosy Cloud) 茜雲
Ⅲ. A Shadowy Gallop 幻影のギャロップ
(プログラム唯一のサクソフォンオリジナル作品! 総演奏時間:約15分)
それでは、作曲者本人のコメントを交えつつ、具体的にご紹介します!
▪「黄金色のサテュロス」とは
“ 木管楽器と金管楽器の中間にあるサクソフォン属の、センシャルな音色に導かれていくうちに、アルト・サクソフォンの姿がいつしか半分人、半分獣のサテュロスへと変容していきました。 ” (作曲者コメント)
まず、作品全体に与えられたこのタイトルは、サクソフォンのことを表しています。「黄金色」とは、真鍮で作られているサクソフォンの管の色を指し、「サテュロス」とは、悲哀と陽気とを奏でる笛を吹く牧童の元祖とされる、ギリシア神話に登場する半人半獣の精霊です。サクソフォンの、金属の管を持ちながらも、木管楽器の原理で音を出すという二面性、人間的な艶のある音色から自然的な猛々しい音色まで持ち合わせているという二面性から、このイメージが浮かんできたそうです。この作品にはそうしたサクソフォンの幅広い性格を活かした、個性豊かな3曲が収められています。
▪ Ⅰ. プレリュード
“ 「プレリュード」は、せりあがっていく打撃音による介入が、息の長い歌へと解放されるプロセスを描いています。 ”
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( 0:12 ~ 3:50 演奏は自動演奏によるサンプルです。)
プレリュード prelude とは、前兆、前ぶれという意味の言葉で、音楽では「前奏曲」あるいは「序曲」と呼ばれます。その名の通り、これから始まる物語の舞台の幕が上がっていくような、予感に満ちた曲です。前半はどきどきした緊張感を孕みながら、サクソフォンとピアノが、挨拶や声を呼びかけ合っているようにも聞こえます。途中、ふとピアノがくるくると回るような伴奏を始めます。そしてそれをサクソフォンが受け継ぎ、そのあとに強烈な和音が数度打ち鳴らされると、そこからは吹っきれたように、両者は打ち解け、スキップするようなリズムで次の物語へと進んでゆきます。
▪ Ⅱ. 茜雲
“ 私の育った町の近くには荒川が流れていて、夕方、土手に立つと夕日に美しく染まる雲が見えました。「茜雲」は空が薄く色づいてから日が暮れるまでの情景の描写です。また、遠い国で起こった侵略を日々ニュースで見ながら、筆を進めました。茜色には、焼けた町に夕暮れが染まるという含意もあります。 ”
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( 3:53 ~ 9:30 )
この曲は、今回の3曲のなかで一番最初に書かれた曲です。サクソフォンの持つ特有の音色、ヴァイオリンやフルートなどとはまた異なる深い美しさが存分に引き出されている曲だと思います。曲は、茜雲のテーマともいうべき印象的なのびやかなメロディー、そして曲全体を貫くピアノの和音の連続による伴奏で始まります。この刻一刻と変わっていく伴奏は、夕陽に染まる空や風景の劇的な移り変わりを感じさせます。
日が傾きかけてから沈むまでをずっと眺めていた事はありますか? 綺麗な夕焼けは、雨上がりの晴れた夕方に発生しやすいのですが、今度そんな日があったらぜひ外に飛び出して見晴らしのいいところを探しながら空を見上げて思いのまま散歩してみて下さい(笑)。 夕焼けの空模様や夕陽を浴びている風景は、本当にいくら眺めていても飽きません。次々に変わっていく風景の色や明暗が面白く、見とれているとあっという間に時間が過ぎます。この曲も色々なメロディーや長調短調を次々に駆け巡ってゆくとても表情豊かな曲で、中盤にふと顔を出す長調の茜雲のテーマや、終盤に再び現れる茜雲のテーマ、ほかにも印象的な瞬間がたくさんあります。
またこの曲の作曲時期は、ウクライナ侵攻という衝撃的な事件の起こった時期でもあり、それも「茜雲」作曲のなかでなんらかのインスピレーションを与えただろうと作曲者は語っています。ぜひ様々なイメージを預けて当日この曲を聴いてみて下さい。
▪ Ⅲ. 幻影のギャロップ
“ 「幻影のギャロップ」は、幻の世界へと駆けてゆく半獣神の、生気に満ちた疾走です。 ”
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( 9:37 ~ 14:51 )
( ▴ 映画の前身となった著名な連続写真『動く馬』(1878) )
「ギャロップ (Gallop)」とは馬が全速力で駆けている時の走り方を指す言葉です。ちなみにこの名前を冠したとても有名な曲に、カバレフスキー(1904~1987) の組曲『道化師』第2曲「ギャロップ」があります。(運動会でおなじみの曲。)
この「幻影のギャロップ」も、まさに馬の蹄の音や息づかいや雄たけびを感じさせる力強いフレーズから始まります。これは中盤と終盤にも現れるキーフレーズとなっており、その合間には、夢見るような明るい幻の世界が映し出されます。「ギャロップ」の、足を前に長く伸ばしては繰り返し力強く大地を蹴って飛ぶように走る姿をイメージしたり、あるいは自分がその馬に乗って突き進んでいる景色をイメージしてみたり、ときどき歩調がスローになったり、軽やかに快活になったり、自由な生気溢れるこの曲から、楽しみながらサクソフォンとピアノの織りなす音色に浸ってみて下さい。最後はサクソフォンの駆け上がるメロディーと最後の力強いひと蹴りで、この作品はハッピーエンドで締めくくられます。
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さて、いま聴いていただいたものは、機械による自動演奏でした。
しかし当日29日には、一流の演奏家のお二人、塙さんと小山さんが、目の前でこれを演奏してくれます。しかも初演ということは、この作品が、史上初めて人前で演奏される場に立ち会えるということです。あらためて、すごいことだと思いませんか?(笑) また、スピーカー越しに聴くのと本物の音を生で聴くのとでは、同じ曲でも全く聴こえ方や印象が異なるので、当日はぜひ貴重な生演奏を、全身でご堪能ください。
ところでいろいろと書いてきましたが、じつは音楽には「こういうふうに聴かなければならない」というものはありません。
“ 聴き方とかはないんです。どう聴いても良いんです。自分に降ってくる音を楽しむ。難しいことなんて考えず、自由に自分の五感でもって聴いてください。”
(塙さんのインタビューより)
“ 私の曲というのは難しい楽曲分析とかそういうものが必要な音楽ではありません。メロディーがあって、和音があって、ごく普通に聴いていただければいいかなと思います。皆さんの心の目、心の耳で、タイトルを手掛かりにして想像を巡らせながら聴いていただければありがたいかなと思います。”
(江藤先生のインタビューより)
ここまで書いてきた私の解説も、結局のところすっかり忘れてしまって構いません。(笑) 当日はまたまっさらな気持ちで、目の前で奏でられる音楽に自由に身をゆだねてみてください。
それでは、当日、ご来場をお待ちしております!
(ブログはまだ数回続きます ! 次回をお楽しみに!)
文責:佐藤 (人文3年)